備忘録

書きたいことや思ったことの殴り書き。

カタールの記憶

5年前にカタールに行った時の話です。

本当は3月末にカタールW杯ボイコットの話が出た時に書こうと思ったものの、本業のほうがバタバタしすぎてて書く暇もなく、「ま、いっか」と思って書くのやめたんですが、友達のやってるポッドキャストでちょうどこの話が出てたのでやっぱり書こうと思います。

 

 

サッカーオタクな二人のポッドキャストです。本業じゃないのに細部までこっててすごい。

 

で、カタールの話です。W杯のスタジアム建設に関わった出稼ぎ労働者が、過酷な労働環境によって命を落としていることに対して3月のAマッチデーあたりで各国(特にヨーロッパ)がボイコットをほのめかしたり人権を重視するような抗議をしていました。正直スキャンダルでもないし、開催が決まったときから問題視されていたのに「何をいまさら」って思ってしまいます。コロナがない世界線でも抗議してたのかな、とか色々勘ぐってしまいます。

 

そんなカタールの問題ですが、この国を訪れればその問題は生々しいくらいに伝わってきます。これまで40か国以上を訪れましたが、実は一人で初めて行った外国がカタールでした。それも3-4週間。で、誤解を恐れずに書くと、カタールで見た景色がなければそんなに海外を言っていないと思うし、バックパッカーとかがよく言う「価値観の変化」があるとすれば、それはよくあるインドでもなく、モロッコでもなく、初めて住んだデンマークでもなく、カタールだなと思います。それくらい強烈な体験だったなと5年たった今でも思います。

 

カタールに行ったのはU-23アジア選手権(リオ五輪予選)のためで、2戦目から決勝までずっと滞在していました。今でこそどこの国に行くのに大体どれくらいの予算が必要か、とかは感覚でわかるものの、この時にそんなことが分かるはずもなく、Booking.comで宿代を調べたら「7000円」と出てきたので、あろうことか僕はこれを20泊分の値段だと勘違いして「カタール物価安いな、余裕じゃん」と思って、航空券を取れるだけの貯金が出来た瞬間に航空券を予約したんですね。で、その後にそれが1泊分の値段だということが判明して青ざめるという。

その当時忙しくてろくにバイトもできていなかったので、20泊分の宿をそこから貯めるのは不可能だったので、結局Couchsurfingで調べて出てきたカナダ人のおじさんの家に居候していました。そのおじさんとは1年ちょい前に東京で再開しています。いい思い出です。

 

そんな感じでスタートしたカタール遠征で最初に直面した問題が移動。その当時カタールには公共の交通機関がなかった(バスはあったものの労働者以外使っていない)ので、移動は基本的にタクシーでした。で、このタクシーがまあぼったくるぼったくる。メーターを回さない、わざと遠回りする、この辺は日常茶飯事で、乗ってると全然違う方向に走り出して他の人を乗せて、強制的に相乗りになったと思えばその人の分まで二重に請求されたりとか、そんなこともありました。日本のタクシーと比べたら値段は安いものの、それでも塵も積もれば山となる、で節約旅行においてはここを妥協するかどうかは結構響いてきます。

彼らは大体”Where are you from? Do you work here?”などと聞いてきます。で、日本人だと答えたら最後、大体ぼったくられます。最初はこれにずっとイライラしていたのですが、そんななかある日乗ったタクシーの運転手との会話が記憶に鮮烈に残っています。その運転手も例にたがわず「どこから来たの」と聞いてきたので、日本と答えると、「あーじゃあお金沢山持ってるよね」といってぼったくってきました。その人の立場に立って考えてみたら当たり前なのかもしれないけれど、日本でぬくぬく育ってきた自分にとっては「お金をたくさん持っている(であろう)人からは多めに請求していい」という思考回路はだいぶ衝撃的で、その人たちが出稼ぎ労働者であることを念頭においても理解をするのにだいぶ時間がかかりました。この辺の考えは滞在中にカタールのいびつさを目の当たりにしていく過程で徐々に変わっていきます。

 

この国、なんか不思議だな?って最初に思ったのは食費です。その当時はカタールに行くようなサポーターの知り合いもいなかったので、だいぶ心細かったわけですが、そんな中で知り合いづてで紹介してもらったカタール在住の日本人の方にご飯に連れて行ってもらう機会が滞在して1,2日目にありました。普通のファミレスのようなお店だったものの、1プレート大体3000円くらいで、「物価めちゃくちゃ高いやんけ!」って不安に駆られたのを覚えています。一人で食事をするときはサブウェイとかマックとかで済ませていて、そういうところは日本と大して変わらなかったのですが、ある日ふと訪れたバスターミナルの薄汚い露店で売ってるサモサの値段を見て愕然としました。朝ごはんとしては十分なボリュームがある大きさのサモサが、1リアル(30円)で売っていたのです。「カタールにこんな安い食い物あるのか、ラッキーだな」って思うと同時に、「価格差えぐいな」という感想も出てきました。バスターミナルであたりを見渡すと周囲には出稼ぎ労働者しかおらず、この露店が労働者向けであることは明らかでした。

その日の昼食をとるために訪れたバスターミナル付近のインド料理屋も、以前訪れたファミレスとは明らかに価格帯が異なっていて、2人で分けても余りそうなビリヤニが300円ほど、といった感じでした。そういえば前のファミレスとは全く客層が違うし、この辺で「もしかしてこの国、物価が二つ存在するのでは…?」ということを感じ始めていました。

 

そう考えると、前のタクシーのぼったくりなども合点が行く気がします。要するに自分は出稼ぎ労働者から見たら「もう一つの物価の側の人間」であって、その人に対して「正当」な金銭を要求しているだけなのだろうな、と。そして、それまでは気になっていなかったものに目が行くようになって行きます。それは、そこで人がどのように暮らしているか、ということです。

そのなかでも特に目についたのがカタール人の子供の横柄さ。ドーハで有数の観光地であるスークワキーフという市場にはペットが沢山売られている区域があって、そこに行くとおびただしい数のインコやウサギ、モルモットなどが狭いケージの中に異様な密度で閉じ込められていて、動物のフンの強い匂いとけたたましい鳴き声が鳴り響いています。これだけでもだいぶ地獄なわけですが、そのケージをバンバンと叩いて、驚いた動物を見て笑っているカタール人の子供とそれを注意するわけでもなく一緒になって笑っているカタール人を見て「この国の育児どうなってんだ?」って衝撃を受けました。他にもショッピングモールのおもちゃ売り場で売り物を勝手に開封して遊びだしたり、カフェの屋外に設置された座敷を投げ飛ばしたり、とにかくやりたい放題です。子供がやりたい放題なだけならまだしも、それを決して注意しない親がとにかく異様に映りました。後々他の人の話を聞いたりすると、そういった事例はカタールでは普通で、普通になってしまっているからこそその横柄さに拍車がかかっているのだなぁと感じました。働かなくてもお金が入ってくるような環境で育てばそりゃ横柄にもなるだろうし、この国ではとにかくカタール人が絶対なんだな、ということを強く実感しました。今問題視されている労働者の人権問題について、個人的には、猛暑などの気候云々以上に(カタールの夏は本当に本当に地獄のような蒸し暑さなのでそれはそれで原因の一つではあると思うが)、この態度こそが根本にあるんだろうな、と思うには十分すぎる体験でした。

 

で、そういう経験をしてくるとぼったくりとかを受けても法外な値段じゃない限り「まあこれくらいは良いか」という風に妥協するようになって行きました。それと同時に、どうしようもないとはいえ、運転手と日本人としての自分の明らかな格差を自覚してしまっている自分に嫌気がさしたりもしていました。何がともあれ、こういった自分の今まで見たことのなかった社会だったり文化をこのような形で紐解いていく感覚は新鮮で、ありきたりな言葉ではあるものの「自分の知らない世界はまだまだあるな」と感じたのが、このカタール滞在でした。日本代表はその大会で優勝し、すっかりトラベラーズハイになった自分は勢いでリオ五輪まで見届けることを決意し、リオで留学を決意しデンマークに飛んでいるし、自分の旅行の軸が「文化を見る」ことになった原体験でもあるので、カタールでの経験がなかったら今の自分はないだろうなあって思ったりします。水タバコを吸いながらこの文章をだらだらと書いているわけですが、吸っているとカタールの狭い路地で吸ったひょうたん製の水タバコを思い出すように、折に触れてカタールの思い出がよみがえります。今回のボイコットの件は、強烈なインパクトを与えた経験を思い出してちゃんと言語化するいい機会だなっておもったので書いてみました。

 

自分にとってはカタールはそういう場所なので、5年前に訪れて以降結局3回くらい訪れています。まあ大体はトランジットついでにめちゃくちゃ美味いイエメン料理を食べるのが主目的なわけですが、最後に行ったのももうそろそろ3年前とかになるのでそろそろ記憶をアップデートしたいところ。地下鉄も開通したし、今回取り上げた人権問題が(なぜこのタイミングなのかは分からないけど)大きな問題になってきて、カタールがどう変わるのか?は純粋に興味があるので、コロナが落ち着いたらまた行きたい国の一つ。それを知るには十分な滞在が必要だと思うので、カタールW杯の頃には日常が戻っていればなあ、なんて思ったりしています。