備忘録

書きたいことや思ったことの殴り書き。

2年間の修士課程を終えて。

先日大学院最後の活動であるインターンを終えて、卒業目前まで来ました。

インターンの単位が認定されれば、晴れて卒業できます。こういうのは「2年間一瞬だった」みたいなのが典型的な気がしますが、個人的にこの2年間は長かった。一番最初の授業をとったのはもう3年以上前な気がしてしまいます。

学業面

ワーヘニンゲン大学の修士課程は、主にコースワーク(授業)、修士論文インターンの3部構成になっていて、授業1年、もう一年の6割を修論、4割インターンといった感じのスケジュール感になっていました。

 

授業

もともと学部生の時に、「農業というか畑に一番近いような学科にいるはずなのに、全く農業の全容がつかめてないの、控えめに言ってだいぶやばくない?」という自分自身の知識の浅さというかギャップを感じたのが、大学院に行って勉強したいな、と思った要因だったので、大学院に行く主目的は「卒論でやっているテーマを突き詰めたい」ではなく、「一歩立ち止まってもう一度農業というものの全容を科学したい」といった感じでした。そもそも卒論のテーマはあまり好きじゃなかったし。

というわけで研究中心の修士課程は割と初期の段階から除いて、コースワークがあるヨーロッパ中心に大学院選びをしていました。アフリカ等熱帯農業を勉強できる環境としてヨーロッパが一番よさそうだったというのもありますが、熱帯農業を勉強できるアメリカの大学を除いたのはこの辺が大きい。

そんなこともあって、授業では「農業のシステムがどういう風に構成されていて、それぞれのファクターがどのように関連しているのか」「持続可能な食糧生産ってどうやったら実現できるのか」「持続可能性(Sustainability)をどういう風に分析・科学するのか」とかを主眼において授業を取っていました。

通っていたワーヘニンゲン大学というところは農業の中でも、農業に関するモデリング(農業のシステムを単純化して、こういう条件だったらこうなるはず、といった風に予測するもの)の開発に長けていて、至る所でモデリングに触れていたような気がします。もともとの予定では、修論の研究でモデリング的なことを出来たらいいなあと思っていたので、これはよかった気がする。色んなモデルについてやりましたが、国レベルのものから農場レベルのもの、時には作物レベルのモデルなんかも動かしたりしてました。

まあでも授業でやるモデリングのレベルなんてたかが知れているので、自分でやるコーディングはそこまでなく、数学の問題を軽く解いたりするくらいの感覚のものが多かったように思います。学部の時の生物統計学とかのほうがよっぽど難しいことをやってた気がするけど、あの時の自分のプログラミング言語に対する理解度が低すぎただけだろうか。

コーディングのレベルはさほど高くないにせよ、モデリングを通してどういったファクターが持続可能な食糧生産に必要なのか、どういったマネジメントが必要なのか、何のパラメータが変わるとどうなるのか、などといった農業システムを理解するために必要な諸々の知識を包括的に学べたのはよかったなぁと。あとはR言語を一通り問題なく使いこなせるくらいにはなったので、とりあえずデータ分析とかの素地ができたのもよかった。

 

農業を科学する、と言ってもやっぱりスケールはまちまちで(作物1個体に注目することもあれば、農場レベルの話もあり、時には地域、国レベルの話もある)、それぞれのスケールごとに個別の理解みたいなのをしておかないといけないのですが、持続可能な食糧生産、というとスケールはでかくなりがち。ということで、授業の内容としては比較的平易なものが多かった気がします。これは全体的に日本の大学の講義に比べてレベルが易しいのか、トピックによるものだったのかは正直不明。

じゃあ授業は楽勝なのか?というと決してそういうわけではなく、正解があるわけでもない問いについてのDiscussionがたくさんあったり(それも各々が異なるバックグラウンドを持っているので、切り込み方も違う)、そもそもの議題に様々な要素が絡み合っているので(生物学的な話だけじゃなく、経済や文化的側面等)、それはそれで頭を使うし、農業というものを理解するうえで必要な思考の枠組みが鍛えられたんじゃないかなって思います。

特にアフリカ農業は文化や経済的な制約が非常に重要な要素なので、こういった議論が出来たのは結構自分のためになったなと。

あとは、有機農業や菜食主義などに関する議論をすることもあり、ヨーロッパでなぜこういったものが流行るのか、そしてそれを理解することで、じゃあ日本やアフリカではどうなのか?など、いろんな視点でものを見れるようになったんじゃないかな、と思ったりもします。まあこの辺は授業だけじゃなくて修論インターンのおかげもありますけど。

 

とにかく、日本の授業では比較的受験的な頭の使い方(問題自体は難しいし理解に時間もかかるけど、答えの幅は少ない)だったのに対して、オランダの授業ではまた違った頭の使い方(問題の理解には時間がかからないけど、答えの幅が広いのでしっかり考えて答えを出さないといけない)だったので、その辺のコントラストを感じれたのはよかったなと思います。

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修論

本当は修論でアフリカでデータ集めて分析できれば良いなあって思っていたのですが、絶賛コロナ禍真っ只中、ヨーロッパ内の移動もまだまだ難しいみたいな時期だったので、テーマ選びの時点で「アフリカに行くのは不可能だからね〜」と言われていて、既存のデータを用いてアフリカ農業の研究を行いました。入学前から一番行きたかった研究室でアフリカの農業に関する研究ができたのはよかった。

結局はというといわゆるモデルのようなものはあまり使わず、むしろ分析のためのフレームワークを自分で作って色々試してみる、といったような研究で、それはそれで面白かったです。自分の場合はメインの指導教官が1人、サブの指導教官が2人で、それぞれから均等にフィードバックをもらうことが出来たので、かなり充実した修論執筆になった気がします。

ワーヘニンゲン大学の修論は指導教官が放任主義だと全然アドバイスもらえないよ、って聞いたことがあって、どうなることやらと心配していたのですが杞憂に終わりました。ただ、周りにはそういう学生も結構いたりして、大概6か月以上かかっていたようなイメージ。自分は運よく6か月で終えることが出来たものの、同じ研究室では平均して7-8か月はかかっていたような気がします。振り返ってみると、自分の指導教官はめちゃくちゃ当たりだった。

内容はというと、農業の多様化が農場レベルでどれくらいリスク低減につながるかの定量化のようなことをやってて、「平均の生産量が上がっても、年毎の生産量がばらついてたらよくないよね」といったようなことを出発点に、資産分割によってリスクがどれだけ減らせるか、という経済学の理論を用いて研究をしていました。

これだけ大事そうなテーマなのにあまり研究されていないのはなんでなんだろう?と思って研究を始めたものの(トピックは自分の興味に合わせて指導教官が選んでくれた)、研究をやっているとその手法を用いる問題点とかが結構浮き彫りになってきて、「大事そうなテーマなのに研究がなされてないのは、簡単そうに見えても実はすごい難しいからなんだろうな」って思った思い出。

まあとはいえ何とか終わらせた修論。口頭試問の際に試験官からもらったフィードバック等を指導教官と一緒に考えながら、今後一緒に論文だせたらいいよねえなんて話をしています(卒業後のタスクのひとつ)。

 

インターンシップ

インターンでは修論や授業でやってきたこととは打って変わって、カカオ林の生物多様性の調査をしてました。

最初はフランスの研究機関で4か月インターンをする予定だったのですが、その予定が色々あって立ち消えになり、そうこうしている間に大学の渡航制限が消えていたので、「じゃあアフリカに行けるインターンを探そう」と思って、ダメもとで学内の知り合いのアフリカ農業を専門してる先生に「なんかアフリカ行けるインターンないっすかね」って聞いたら紹介してくれたのがそのインターンでした。なんやかんやコネは大事というか、とりあえずコンタクトを取ってみるバイタリティみたいなのに助けられたシーンが結構大学院在学中は多かった気がします。

 

というわけで2か月間のフィールドワークに行って、それはそれはキツイ労働だったわけです。「来てよかったか?」の問いには即答でYesと答えられるけど、「もう一度同じことやりたいか?」と言われたら3日間くらい悩みそう。それくらいきつかった。

ただキツくても逃げる場所はどこにもないので、なんとか適応しようともがいた経験はよかったのかなぁって思ったりしてます。

何よりもアフリカの地に調査に行けたというのが本当に良かった。今まで座学ベースで身につけてきた色々な知識の解像度が日に日に上がっていく感覚だったり、来てみて初めて思った気づきとかは今後に活かしていきたいなぁと思います。

で、2か月間カメルーンでデータを集めて終わりかというとそういうわけではなく、その後はオランダで2か月間データ分析をしてました。これはこれでいい経験になったというか、大学院生活の締めくくりとしては非常に良い締めくくりになったなあと。集めてきたデータを自分で整理して、そこから問いと仮説を立て、分析して調査レポートを書くという、研究の一連の流れを出来て、意外と研究も面白いかもなぁって思ったりしました。とはいえ2か月間という期間はそれをやるにはだいぶ短いので、研究には粗もあり、そこは反省というか、もう少し頑張っていかないとなぁって思ったりしました。

ま、でも、ディフェンスで試験官とのディスカッションはかなり手ごたえがあったというか、ちゃんとしたディスカッションが出来たなって実感できたので、非常にスッキリした感じで全課程を終えることが出来ました。めでたい。

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生活面

生活面について。一度デンマークにいたこともあって、カルチャーショックとかコミュニケーションの難しさみたいなのはそんなになかったな、というのが正直なところ。

とはいえ、コロナ禍で授業のほとんどがオンラインだったり、人と会う機会が激減したり、みたいなのは結構きつかったなぁと思います。旅行とかも去年の夏ごろからやっとできるようになったけれど、昨年末もなんやかんやで普通にロックダウンとかしてたし、コロナに翻弄された2年間だったなぁとは思ったりも。住んでいた寮が一人部屋だったので、知らない人とのコミュニケーションが全然なかったのも結構つらかったなぁと。

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まあでも旅行はなんやかんやたくさんいけました。去年のFCコペンハーゲンの海外アウェイは皆勤賞だったし、新しい国も沢山行けて訪問国数が50を越えました。めでたい。

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新しいことも色々初めて、最近はさぼり気味だけどフランス語も日常会話レベルは出来るようになり、ギターもコード弾きであれば弾き語りもできるようになり。ボルダリングは始めたはいいものの最近出来てないなーという感じでもうちょっと頑張りたい。

 

今後のキャリアに関して、ですが、海外大に行ってる日本人が正規のルートで日本の就活をしようとすると、ボスキャリやロンキャリといった海外で行われているキャリアフォーラムを使うのが王道。最近はコロナの恩恵もあってすべての面接をオンラインでできるところも増えてきているので、そういう意味では海外院生にとって幅は広がってはいますが、じゃあ就活をしたか?というと、ほぼしませんでした。

理由としては

①就活なんてやってる暇がない

これがなんやかんやで一番デカい。ボスキャリがあった期間は修論が佳境で、就活なんてやっている暇は全くなかったです。ボスキャリで行きたい企業があれば別なものの、アフリカの農業なんて専攻している学生が興味を持つような企業は皆無だったので、ESを出そうかなぁくらいの段階で挫折しました。

一般の就活もカメルーン渡航と丸被りだったので、「あーこれやるだけ無駄だわ」って思って切り上げました。

②日本で働く意義があまり見当たらない

そもそも日本にわざわざ帰る意味ってなんだ?っていう話でして。家族も元気だし、日本に帰らないといけない理由はないし、自分だけ養えばいいわけなので、給料とかはいったんおいておいて、アフリカのNGOだったりいろんなところでインターンをしながらフルタイムの仕事を探そうかなぁ、なんていう風に気持ちが傾いてました。やりたいことを追求できるのは今しかないなと思ったので。

 

と、書いておいてなんですけど日本で就職することになりそうです。アフリカ農業に携われそうな仕事だし、身につけたいスキルが身につきそうな職だし、携わり方とかも自分の考えにものすごくあっていたので、これは今とれるベストな選択なんじゃないかって思いました。ちなみにかなりイレギュラーな方法で仕事にたどり着きました。ただ海外大学院に行ってる日本人は結構そういったイレギュラーな感じで職にたどり着いている人も多い印象(分野がニッチであればあるほど)。

 

オランダもデンマーク同様、皆が自分自身の進みたい道を実現することのハードルがものすごい低い(社会からのプレッシャーが少ない)国なので、そういった国にいることで今後のキャリアの幅を広げられて、いろんな可能性を考えられたのはよかったなって思います。

他にもフランスで博士課程に進まないかという話ももらったりして、これはこれで面白そうだとは思ったのですが、やっぱり博士課程は実務を積んでからやりたいなと感じたので断りました。

 

ヨーロッパの修士課程ってどうなの?

ヨーロッパの修士課程は、アメリカとか日本とはだいぶ違います。1年目はコースワーク、2年目に修論(とインターン)というのが主流なので、日本の友達とかに説明すると驚かれます。そして逆もまたしかりで、オランダの友達に日本の修士課程の感じを説明するとそれはそれで驚かれる。

で、やっぱりこのコースがあるというのが個人的にはでかいと感じていて、2年間を終えて「修士レベルといえるだけのしっかりとした知識をつけたうえで、研究やインターンをやって将来のキャリアをどうするか見定めるための2年間」というメッセージを大学のカリキュラムから感じました。研究全振りってわけじゃあないので学部ですでに研究とかに手を出している人がそのまま来たらもどかしくなるんじゃないかなって思ったりします。逆にまだまだ勉強したいことがあったり、自分の学んできた内容をキャリアで活かすにはどうすればいいのかわからない人にはものすごくいい環境だろうなって思います。

国によって大学院が目指すところだったり、位置づけは微妙に変わってくるので、カリキュラムとか自分が何をしたいのかを考えるのが大事だろうなって思います。

じゃあ研究をしたい人はオランダの修士課程に進まないのか、というとそういうことでもなくて、もちろん研究したい人向けのトラックもあるし(コースワークはどのみちあります)、メリットも色々あります。中でもデカいのがコネクション。オランダの博士課程は給料もちゃんと出る「仕事」なので競争率がべらぼうに高いので、コネを作っておくことはかなり大事だと思います。実際自分がフランスの博士課程のオファーをもらったのも知り合いだったし、インターンの話も知り合いからもらったので、世の中にオープンになっていないポジションが回ってくることも結構あるなあと思いました。自分は博士課程をやるなら修士と同じ研究室がいいので、出来るだけ図々しく、可能な限り研究者の人たちとコネクションを作りました。後は研究一本になる前に、いろんな関連分野に授業で触れられるのもいいところなのかな。

自分の大学では分野が学際的であったり、実社会に近ければ近いほど、いろんな経験を積んでから博士に進む人が多い印象でした。実際自分の研究室の博士課程の人はほとんどが実務経験ありといった感じでした。

農業系・生命科学系・環境系の学生にはワーヘニンゲン大学は超おすすめです。マジで。