備忘録

書きたいことや思ったことの殴り書き。

カタールワールドカップ回顧録

ワールドカップに行ってきた。

日本代表に関してはFC東京の延長線上という感じのスタンスで、毎試合見に行く、みたいにものすごく真剣に応援しているわけではないし、「まあ4年前行って楽しかったし、今年も行けそうなら行くか」というテンションでなんとなくチケットを応募したのが5月。5月末に来たメールで日本のグループリーグの3試合分のチケットが当たったことが分かった。自分と、ロシアW杯やリオ五輪に一緒に行った友達2人分のチケット。
4年前は学生だったので、時間はあってもお金がない、そんな感じだった。今は逆で、お金の面では問題ないけれど時間が工面できるか分からない、そんな感じ。いや、4年経っても自分だけはまだ学生だから「時間はある」の側だけれど。とりあえずチケット代を支払ったけれど、「やっぱりスケジュール的に厳しそう」というので2人分のチケットをキャンセルしたのは10月ごろ。
大人になっていくというのはこういう事なのだとは分かっていても、残念というかぽっかりと穴が空いてしまったような感じ。6年前のリオ五輪も、4年前のロシアW杯も、この人らと行って本当に良かったなって思ってたし、未だにブラジルやロシアの思い出話をするほどだったから、今回は1人か〜と思うとやはり寂しさが募る。 もちろん他にもカタールに行く友達は沢山いるのは分かっていたけれど、自分の中ではこの2人と旅をするというのは何か特別なんだよな、って思ったりした。


そんなこともあって、正直なところW杯直前になってもそこまで気が乗らなかった。

しかもヨーロッパの国々はカタールにおける人権問題などを問題視してボイコット運動をしている。デンマークのチームをフォローしている以上、嫌でもそういった情報が入ってくると、自分の気分はますます乗り気ではなくなってきてしまう。まあボイコットを本気でするならもっと早い段階からやりゃあいいのに(多様性の否定はともかく、労働者の人権問題に関してはもっと早い段階から明るみになっていたし)、直前になって出場辞退とかが理論上出来ない段階になってからボイコットとか言い出すのはいかにもヨーロッパらしいムーブだなって思ってはいるけれど。

4年前ほどの高揚感はないにせよ、行けば楽しめるだろう、と思いつつカタールに向かう。ドーハの空港に着くと、いろんな国、主にモロッコ中南米諸国からのファンで溢れていて、ワールドカップが行われている国に来たんだなぁと実感する。さすがにこの光景を見たら下がっていたテンションも徐々に上がってくる。

 

ドイツ戦の朝。同じ宿に泊まっている友達と合流する。全員がFC東京ファンだったので、せっかくなので何の脈絡もなくFC東京のチャントをバス停で歌う。顰蹙を買うのではなく、同じメロディの応援歌があるアルゼンチン人に喜ばれるあたり、ワールドカップだ。スタジアムで久しぶりの知り合いと「4年前のロシアぶりですね」と会話をしたり、来てることをお互い知らなかった知り合いと「来てたんですね~」と言いあったり。6年前にリオ五輪の予選で知り合った知り合いと「浅野君はドーハに良いイメージ持ってるはずだし、6年前の決勝みたいに活躍してほしいよね」なんて会話を交わす。世間一般だとドーハというと悲劇という言葉が結びつくかもしれないけれど、自分はドーハという場所で見るサッカーにはいい思い出しかない。何せ6年前のU-23アジア選手権では無敗で優勝しているのだから。

 

さて、試合。明らかに向こうが格上、といったような相手とやる時はいつもテンションが上がる。周りからはさして期待されていないし、試合前からこっちが勝つと信じているのは日本人だけだ。特に今大会のスタジアムは言っちゃ悪いがサッカー後進国のサッカーファンが多く、弱いチームの番狂わせを期待するよりかは有名選手がいる強いチームを応援する気がある。それゆえにスタジアムでは多くのドイツ国旗を見かけた。今に見てろよ、と気合いが入る。国歌が流れる。ドイツ国旗の多さとは対照的な国歌斉唱の声の小ささを目の当たりにして、なんとなく行ける気がしてくる。
とはいえ海外サッカーをほとんど見ない自分ですら知ってる名前が並ぶ相手、やはり強い。前半の0-1はまあ想定の範囲内だけど、勝ちを目指す上では0-0が良かったよなぁなんて思いつつ折り返す。そして迎えた後半。浅野が出てきていきなりチャンス、そして思い出すドーハでの6年前。あの時の後半からの「なんか行けそう感」は尋常じゃなかったし、今回も浅野投入の後からその雰囲気を感じる。そして結果はご存知の通り2-1、なんか行けてしまったのだ。ワールドカップという世界最大規模のイベントで、一気に主役に躍り出た快感というのは凄まじい。

 

そしてコスタリカ戦。正直に打ち明けると、なんやかんやで引き分け以上は行けるでしょうって思ってました。甘いと言われればそうなのだけれど、本心でもある。巻き添えを食らわせると、前日の日本人サポーターの集まりでもベスト16の話ばっかりしてました。すみません。帰り道、スペイン対ドイツの結果がどうなるとどうなのかを脳内シミュレーションをする。スペインが勝って次節日本とスペインが引き分けで両チーム突破が丸いかなぁなんて、まあ及び腰な姿勢で、ドイツ戦後とは対照的。この日の夜スペインがドイツと引き分けて、まあ色々な条件はあるものの、基本的にはスペインに勝利しないとラウンド16に行ける確率は低い、という感じになった。そうなれば簡単で、もう腹をくくって選手もファンも勝ちに行くしかない。中3日の間に勝つイメージをどれだけ持てるか。そりゃあ勿論勝つことを信じて応援するわけなのだけれど、本気で勝つって思うのって案外難しいわけで。友達の多くがコスタリカ戦後に帰ってしまったし、自分も体調を崩し気味だったので、スペイン戦まではがっつり休養。

 

スペイン戦。体調も何とか戻って、いよいよ勝負の日。ドイツ戦で日本があれだけの番狂わせを起こしてもなお、第三者として来る南アジア系・中東系はスペイン贔屓の人が多いな、とスタジアムに着いて感じる。前半。0-1というスコア以上に何もできず、「このチームに負けて敗退ならしゃあないわ」くらい打ちのめされる。とはいえまだ前半だし、1週間前に後半残り45分でその状態からひっくり返したのだから、無理なことじゃあない。コールリーダーの「ちょっとみんな、暗いよ!?」の声でスタンドに笑顔とギラギラ感が戻る。そして今回も感じる、根拠のない「なんか行けそう」感。

 

…行けてしまった。ドーハで作った即席の長友佑都の横断幕を日本の選手が回ってくるタイミングに合わせて最前列に持っていく。それを見て胸を叩く長友佑都(それを見て、というのはこっちの主観だけど)。一生ついていきます。しかし1週間で2度目とかってなると、1戦目の後のようなフワフワした感情はない、というか今置かれている現実が夢なんじゃないかと思うくらい、もうよくわからない。が、置かれている状況―現在午前0時半、翌朝12時チェックアウト、飛行機は24時間後、ラウンド16に向けて延泊するか否か―を前にすると、現実に戻らざるを得ない。延泊するなら飛行機の変更や宿問題をどうするかなどやることは山積みだし、そもそも体調とも相談しないといけない。そんなことを考えつつシャトルバスに乗って宿に向かっていたら、リオやロシアに一緒に行った友達から航空券のEチケットのスクリーンショットが送られてきた。相変わらずサッカーファンのこの条件付きの異常なフットワークの軽さと財布のひもの緩さはイカれてると思いつつ、この瞬間自分が延泊することも決まった。この人らと国際大会に行くことももうないのかなぁなんて諦めかけていたので、これほどワクワクすることもない。急いで航空券、宿、チケットの手配をして延泊の準備をする。

 

クロアチア戦当日。朝5時に空港に友達が着くと聞いたので、コーヒー片手に迎えに行く。留学などで日本に帰ってなかったから、なんやかんやで1年ぶりの再会。そういえば4年前のワールドカップのときも、ロシアが久しぶりの再会だったなって思い出したり。そんな懐かしさにしみじみする暇はあまりなく、仮眠を取って2人用の宿にチェックインして、とかやってたらもう試合会場に向かう時間。4年ぶりのラウンド16の空間、そして史上初のベスト8へ。

 

試合結果は知っての通り。PK戦、なんとなく行ける気がしたのだけれどな。4年前負けて本田のロスタイムのフリーキックが槍玉に上がっていた時も思ったけど、ここまで来て試合後に「PK戦が挙手制だったのがいけないんじゃないか」とか敗因さがしをする気になんて全くなれない。選手にも監督にも、ここまで連れてきてくれてありがとう、な気持ち。まあそもそも自分は気持ちでサッカー見てる側面が強いので、敗因探しとかそういうのは他の人が頑張ってくださーい、みたいな。それはそうと、4年前と比べると気持ちは微妙に違っていて、確かに悔しいのだけれど、一方で充足感のようなものもある。

翌日、カタール最終日。友達とドーハの街を適当にぶらぶらしつつ、いつも行っていたトルコ料理屋に入る。いつもはバカ話ばっかりしているけれど、たまーに真面目な話とかをすることもあって、今回がそれだった。その友達とはもう10年以上前に東京の試合で出会って、以後ずっと一緒にゴール裏で応援していたのだけれど、4年前のワールドカップあたりで色々な事情で一緒に応援することはなくなり、別々の視点でサッカーを見るように。そんな彼と4年ぶりに、隣で、本気で応援できたのって幸せなことだったよね、なんて話し合う。昨日の光景を振り返って、まさしくそうだなと思う。長いこと引いてきた線が4年前で途切れて、そこにまた点が打たれた感じ。ここからまた線が引かれていけばいいなと。

 

あまり乗り気ではなかったカタールワールドカップ、なんやかんやで来てよかったなって思う。4年後に自分がその場にいるイメージが全くつかないのだけれど、それでも、その場にいれたらいいな、なんてことを思う。