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12月28日、7時過ぎに出るであろうスコピエ行きの電車に乗るため、6時前に起きる。外はまだ暗い。昨日駅舎まで行ったものの駅舎は閉まっていて、依然電車が走っているかどうかは不明だ。チェックアウトを済ませ、暗い中駅舎に向かって歩く。
昨日きた道を20分ほど歩き駅舎に到着する。相変わらず駅舎はボロボロだが、駅舎には灯りがついており、扉も開いていた。期待を膨らませて駅舎に入ると、そこには駅員が立っており、「ノースコピエ、トゥデイ」と東欧訛りの英語ではっきりと言われた。どうやらコソボ国内の列車は走っているようだが、スコピエまでの電車はないそうだ。スコピエまでの電車を含めても、プリシュティナ駅を通る電車は一日たったの5本しかない。改めて東欧における電車事情の厳しさ、ネット上の情報の信用ならなさを実感する。
プリシュティナ駅舎
悲しみに暮れている暇はない。翌日にギリシャのテッサロニキから帰るのだから、一刻も早くスコピエに着く必要がある。プリシュティナ駅を後にし、徒歩でバスターミナルに向かった。
プリシュティナ駅からバスターミナルの道を歩いているときに気づいたが、さびれた駅舎とは対照的に、駅の周りは再開発が進んでいた。再開発が済んでこの辺が栄えたらもしかすると鉄道事情もマシになるだろうか。
バスターミナルに着いて、とりあえずスコピエ行きを探すと、タイミングよく10分後に出発するスコピエ行きのバス見つけた。急いでチケットと朝食を調達して乗り込む。
濃霧なのか大気汚染なのか分からないが、もやの先に見える幻想的な太陽を見ながらプリシュティナの街を後にした。
少し寝るとコソボとマケドニアの国境に着く。バスを降り、パスポートチェックを済ましてマケドニアに入国。スタンプを見て、キリル文字の国に入ったことを実感する。マケドニアに入って2-30分ほどでバスターミナルに着いた。
バスターミナルに着くや否や、かなりたくさんのタクシー運転手に声をかけられるが、無視してチケットカウンターを目指す。テッサロニキ行きのバスを確保しなければならないからだ。事前情報だと17時にあるとのことだったのでチケットカウンターで聞くと、「テッサロニキ行きのバスは今日も明日もない」と言われた。念のためにチケットカウンターの違うスタッフや、ターミナル内の旅行代理店にも聞いたが、帰ってくる答えは同じだった。バスがなくても電車があるはず、と言うことで併設の鉄道駅のカウンターに行ったがそもそもスタッフすらいない。これはかなり困った。絶対にあると思ってたテッサロニキ行きの交通手段がない。が、帰るにはテッサロニキに行くしかない。先程無視したタクシー運転手が群がる方に行き、テッサロニキに行きたい旨を伝えてみるが、提示される額は150ユーロほど。下がったところで120ユーロだった。正直妥当な額だとは思うものの、もう少し安い方法を探したい。
ここまでバルカンにしてはかなり順調に来ただけに、最後にして最大の関門が現れた。とりあえず近くのショッピングモールで作戦会議をすることにした。
スコピエからテッサロニキまで直接行ける交通手段が存在しない、となると、国境近くの街に行き、そこから何らかの方法で国境を越えて、その後ギリシャ側の交通機関でテッサロニキに行くのが一番有力だ。
調べていくと、国旗から5キロほどの位置にあるGevgelijaという北マケドニア南部の町まではバスが出てそうで、そこから何らかの方法でギリシャのポリカストロと言う街まで行けばテッサロニキ行きのバスないしは鉄道がありそうなこと、もしくは少し遠回りになるがBitolaという南西部の都市からギリシャのFlorinaという都市まで行き、そこから鉄道でテッサロニキまでいけそうなことが分かった。
計画が頓挫した際はタクシーを使ってテッサロニキまで行くしかないので、出来るだけ最短距離の移動の方が望ましい。そのため前者のGevgelija経由を第一候補として進める。
Gevgelijaからのプランは、Gevgelijaからボーダーコントロールのところまではタクシーを捕まえて連れて行ってもらい、徒歩でギリシャに入る。そして入国後、Evzoniという街まで2キロほど歩き、そこでまたタクシーを捕まえてポリカストロへ。そしてポリカストロからバス、と言う算段だ。これならある程度安く、また翌日の飛行機に間に合うはず。
30分ほどで考え付いた2通りの移動パターン
再びバスターミナルまで行ってGevgelijaに行くバスを探すと、14時と18時があった。スコピエの観光もしたかった我々は18時のバスを選んだ。
ギリシャ入国には抗原検査によるコロナの陰性証明書が必須なので、観光をする前にまずは抗原検査を受けられる場所を探す。市内中心から比較的近くに受けられる場所があったので、2000円ほどで抗原検査を受けた。これでギリシャ入国の準備は整ったので、バスの時間まで観光をすることにする。
スコピエの街も例に違わず共産主義時代に建てられた無機質な団地が多い。またティラナやプリシュティナに比べると、寂れている感がより強く、ポドゴリツァのような印象を受ける。が、スコピエが他の近隣諸国の首都と決定的に違うのは、観光地化にかなり力を入れていると言うことだ。それも少しズレた方向に。
スコピエの路線バスの半分ほどは、赤い2階建てのいわゆるロンドンバスだ。これがロンドンでもう使わなくなったバスを使ってる、とかなら分かるのだが、そう言うわけではないのは車内に書かれた中国語の文字から分かる。スコピエで走ってる2階建てのバスは中国のYutong社の新車で、観光地化のために導入されたらしい。
スコピエの路線バス
また、スコピエの中心に行くと頻繁に見かけるもの、それは銅像だ。とにかく360度どこを向いても銅像がある。広場には絶対あるし、大きな交差点には四隅にあったりする。屋根の上、建物の側面、橋の手すり。本当にどこにでもある。この街を歩いている間に銅像を何十体見たか分からない、それくらい銅像がある。
また観光地化を目指しているだけあって、新市街の中心地はかなり整備されておりカジノなども見受けられる。旧市街のオールドバザールはコロナ禍だからなのかオフシーズンだからなのかは分からないが少し寂れていて、サラエボの旧市街の方がよほど観光地としては評価できる。
と言うわけで観光地化しようと頑張ってるのは分かるし、現にスコピエはオンリーワンの都市になっているとは思うのだけれど、果たして共産主義の雰囲気が残った街並みに走るロンドンバスと、市内中に散りばめられた銅像を見るためにわざわざスコピエに来る観光客がいるのだろうか?と考えると甚だ疑問だ。
銅像の嵐。
街を歩いているとマケドニア生まれのマザーテレサの資料館のようなところにたどり着いた。入場料無料なのでとりあえず入ってみる。
資料の中の一つに、世界初のマザーテレサの献身性に関する博士論文、と言う説明書きと共に2冊の本があり、一つは日本語だった。この博士論文が書かれたのはスコピエ大学で、どうやら20年前らしい。本のタイトルもマケドニア語だったので本文もマケドニア語なんだろう、と思うと恐ろしいバイタリティだ。海外でこうやって活躍している日本人の存在を見るとモチベーションになるなと常々思う。
そんな展示を見たこともあって、旧市街を一通り見終わった後比較的近くにスコピエ大学があったので見に行ってみたが、まるで廃墟かのように活気がない、古びた奇抜な建物が乱立していた。自分なら3日で逃げ出しそうなキャンパスだ。ここで博士号を取ったと言うのは本当にすごいと感じる。
スコピエ大。
やることも無くなったので、ショッピングモールのカフェで時間を潰し、バスターミナルに向かう。バスターミナルでもう一度念のためにテッサロニキ行きのバスを探したがやはりなかった。ギリシャはシェンゲン外からの入国を原則許可していないため、需要がほぼなく軒並み運休になってるのでは、という憶測を友達と話していた。
とりあえずバスが来るまで、2人でGevgelijaまで行った後の行動パターンをかなりの数シミュレーションした。その過程で、どうやら航空写真を見るに国境は高速上にあり、夜に徒歩で越えるのはかなり危ないのでは、と言う話になった。となればGevgelijaからテッサロニキ、もしくは国境近くのEvzoni、ポリカストロまでタクシーで行くのが安パイだ。いろいろ調べていると、Gevgelijaのタクシー会社でテッサロニキまで50ユーロで連れて行ってくれる会社があることがわかったので、その会社のタクシーに乗ることを目指すことにした。
17時50分、Gevgelija行きのバスに乗り込む。予想に反してバスの乗車率は8割ほどで狭い席に荷物を持って乗る羽目になった。Gevgelijaまでは2時間ほど。時間を潰しつつ、目的地に近づいていく。
地図を見るともうGevgelijaは目と鼻の先、と言うところまで来たが、灯りはさほど着いていない。街の規模はある程度大きくても田舎は田舎だ。20時30分、人1人としていないようなGevgelijaの小さなバスターミナルに着く。無論キオスクのような店もなく、待合室があるだけだ。この時点で、この暗さで徒歩で国境を目指すのは危険すぎると思ったので狙いをタクシーに絞った。
Gevgelijaのバスターミナル。何もない。
唯一いたタクシー運転手に声をかけられ、試しにテッサロニキに行きたい旨を伝えてみると80ユーロと言われた。英語も大して伝わらないし、調べた会社よりも高いのでまずはタクシー会社に電話してみる。
すると、夜間料金で運賃が60ユーロ、それに加えて運転手のコロナテスト代で17ユーロで77ユーロと言われた。額面上はほぼ変わらないが、電話をかけて会社の方が信頼できるので、予約を取りタクシーを待つ。これでテッサロニキに行ける。かなり不安だった国境越えも何とかなりそうな目処が立ったので肩の荷が降りた。
20分ほどして予約したタクシーが来た。見た目はただの乗用車だが、流暢な英語を話すドライバーだった。パスポートと陰性証明書を確認して、国境に向かう。
北マケドニア側の国境手前のガソリンスタンドでドライバーがコロナのテストを受けるために車を停めた。陸路国境でもこうやって手前でコロナのテストが予約なしで受けられるのは便利なシステム。
結果が出るまでの時間でギリシャ入国のための位置追跡フォームを記入し、結果が出たらいざ国境に向かう。
まずは出国審査。国境に着き、運転手と自分ら2人、合計3人分のパスポートを北マケドニア側の審査官に渡す。すると、審査官は険しい顔をしながら運転手に対してマケドニア語で話しかける。何を話してるか分からないが、運転手が運転席から降りて話を始める。1,2分ほど話した後、パスポートが返却される。スタンプは押されていない。そして運転手は車のギアをリバースに入れる。まさか出国拒否を食らったんじゃないか、という嫌な予感がする。タクシーを捕まえて安心しきっていたが、ここでまた一気に緊張が走る。
運転手いわく、審査官に言われたのは「この車はタクシーのランプがなくてタクシーだとぱっと見分からない。EUとマケドニアではルールが違うし、ギリシャ側で問題になるかもしれないから通すことはできない」と言われたとの事だった。と言う事で、タクシーのマークが付いた車をもう一台呼び、その車で出国をし、出国が済んだら元乗っていたタクシーに乗り換えてギリシャに入国する、との事だった。正直よく分からない事だらけだが、言われた通りタクシーを待つ。
この時点で北マケドニア側の時間は22時を回る。そしてギリシャは1時間早いので23時。ここである不安がよぎる。午前中に色々調べていた時に出てきた情報の中に、Evzoniの国境は23時に閉まる、と書いてあったのだ。ここで国境が閉まったら我々はもうどうすることもできない。
そんな不安を抱えつつ20分ほどすると、タクシーがやってきた。荷物を持ってそのタクシーに乗り込む。今回も同じ審査官だったが、不機嫌そうにスタンプを押して、無事パスポートが帰ってきた。通常陸路国境はそれぞれの国が出入国を管理しているため、間に「無の区間」が存在する。この無の区間で、言われていた通り元のタクシーに乗り換える。
が、やはり腑に落ちない。元々乗っていたタクシーで出国できなかったのは「このタクシーで行くとギリシャ側に入国する際に問題になるかも」という話だったのに、その問題になるかもしれないタクシーで入国するのだ。本当に大丈夫か、と心配になりつつも、タクシーの運転手は悪い人ではないことは直感で分かっていたので、彼を信じ国境へ進む。
ギリシャ側の国境へ着く。シェンゲン圏への入国、ということでオランダの滞在カードを見せ、陰性証明書を見せるとあっさり入国は済んだ。マケドニアのムッとした入国審査官とは対照的に、ギリシャの入国審査官は酔っぱらっているかの如く陽気だった。
ドライバーには「あなたはタクシー運転手?」と聞いていたが、特に何事もなく入国出来た。本当に拍子抜けだ。その後コロナの検査を再度され、今度こそ無事に入国。結局マケドニア側の出国の際のいざこざは何だったんだろう、と思っていると、運転手が「見た?このギリシャと北マケドニアの差。マケドニア側の人は、あれは多分お金を5ユーロか10ユーロでも掴ませれば問題なく通れたと思うよ。彼らは月給450ユーロしかもらってないから。旧ユーゴでは警察の賄賂が横行してるんだ。」と言われた。旧ユーゴの賄賂、といえばストイコビッチの自伝で読んだことはあるけど、それから20年ほど経った今でも賄賂はあるのだな、そしてこれほどまでに露骨に。
5~10ユーロなら払ってもよかった気がするが、確かにその場で「彼が賄賂要求してるから、それを払えば今すぐ出国できるけどどうする?」とか聞かれたら絶対グルの詐欺だと疑ってしまうし、それをしなかった運転手は賢明な判断をしたなと思うし、ますます彼への好感度が上がった。
安堵したせいで急激に眠気が来たが、我々にとって救世主のようなドライバーの横で寝るわけにはいかない、という無駄な意地を張りつつ、1時間ちょっとでテッサロニキに着いた。これで無事に帰れる。
1か月半前に来たホステルにまた来るとは思ってもいなかった。安堵した我々は24時間やっているコンビニへ行き、各々飲み物を買って部屋で乾杯した。この旅一番の乾杯だった。
完
後日談
入国のストレスなのか、毎日動き回ってたまった疲労なのかはわからないものの、家に着いた後ドッと疲れが来て、疲れが来すぎて高熱を出し、ベッドの上で年越しを迎えました。こういうハードな旅はもうそろそろ卒業しろということなのでしょうかね(毎回いってるけど、のど元過ぎちゃえば熱くないんですよね)